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インデックス投資が凡人の最適解と呼ばれる理由

目次

序章:凡人にとっての「最適解」とは何か

「資産運用で成功する」と聞くと、多くの人は高度な金融知識や専門的なテクニックが必要だと考えがちです。しかし、本当に忙しい普通の人(いわゆる“凡人”)にとって再現性が高く賢明な投資法とは何でしょうか?結論から言えば、それはインデックス投資です。インデックス投資こそ、金融のプロではない私たち凡人が時間と複利の力を最大限に活かし、「何もしなくても資産が増えていく」経験を得られる最適解なのです。

インデックス投資が「凡人の最強戦略」とまで呼ばれる理由は、大きく分けて3つあります。それは「勝とうとしないことで勝つ戦略」、「長期・分散・低コストの効果」、そして「人間の心理に打ち勝つ仕組み」です。本記事では、投資の名著や実証研究の知見を引用しながら、これらのポイントを章立てで解説していきます。専門知識がなくても理解できるよう平易な言葉でまとめていますので、忙しい読者の方もぜひ最後までお付き合いください。

投資の世界では、一部の天才的なトレーダーや専門家だけが勝者になれるイメージがあります。しかし、彼らと同じ土俵で戦う必要はありません。むしろ、「凡人は凡人の戦い方」を選ぶことが賢明なのです。プロと張り合うのではなく、市場全体に身を委ね、ミスを減らす戦略こそが、長期的に負けないための鍵になります。以下、第1章以降でその具体的な理由を順を追って見ていきましょう。

第1章:プロに勝とうとしない – 負けない投資戦略

投資で成功するために、まず心得たいのは「プロに勝とうとしない」姿勢です。株式市場の大半は機関投資家や高度なコンピュータ取引によって動かされており、情報収集力も分析力も資金量も桁違いです。個人投資家がこれらのプロと正面から戦うのは、まさに「F1マシンにママチャリで挑む」ようなものだと表現されています。現実問題として、個人が短期的にプロを出し抜いて市場平均以上の利益を上げ続けることは極めて困難です。

投資コンサルタントのチャールズ・エリスは、著書『敗者のゲーム』の中でこの現実を直視し、「投資とは、勝つことより負けないことが重要だ」と説きました。彼はテニスの例え話で、プロの試合はウィニングショットで決まる「勝者のゲーム」だが、アマチュアの試合は相手のミスの少なさで決まる「敗者のゲーム」になると説明しています。つまり、我々アマチュア投資家にとっても、いかに自分が大きなミス(致命的な損失)をしないかが勝敗を分けるということです。

では「負けない戦略」とは具体的に何を指すのでしょうか。それは一言で言えば、「プロと競争しないことで勝つ戦略」です。エリスによれば、個人投資家は無理に個別銘柄選びで勝負するのではなく、市場全体の平均点をそのまま受け取るやり方を選ぶべきだといいます。なぜなら、ほとんどのアクティブ運用(銘柄選びによる積極運用)は長期的に見てインデックス投資に勝てないというデータがあるからです。実際、ある調査では1998年時点に存在した株式アクティブファンドのうち、15年後に市場平均を上回る成績を収めたものはわずか18%しかなく、残り82%のファンドはインデックス投資家に劣後していました。さらに期間を30年に延ばすと、インデックスを上回ったファンドは0.6%(統計的にはゼロに近い)だけだったという報告もあります。これは衝撃的な数字であり、大半のプロですら市場平均(インデックス)に勝てない現実を示しています。

こうした事実から導かれる教訓は明確です。「勝とうとして無理なリスクを取るより、負けない戦略で確実に市場平均のリターンを得る方が賢明」だということです。具体的には、後述するインデックスファンドを活用することで「市場の平均点を丸ごと手に入れる」ことができます。平均点と聞くと妥協のように思えるかもしれませんが、プロの多くがその平均点すら上回れない以上、市場平均を確実に取ること自体が高得点戦略なのです。まさにエリスが述べるように、「インデックス投資は最強の“凡人戦略”」であり、私たちに残された有効な戦い方なのです。

第2章:インデックス投資の威力 – 平均点で勝つ方法

インデックス投資とは、特定の株価指数(インデックス)に連動するよう設計された投資信託やETF(上場投資信託)を購入し、その指数と同じ成績を目指す投資法です。例えば、日本株なら「日経平均」や「TOPIX」、米国株なら「S&P500」や「ダウ平均」、世界株なら「MSCIオールカントリー・ワールド指数(ACWI)」などが著名な指数です。インデックスファンドを買うということは、その指数に含まれる多数の銘柄をまとめて少しずつ持つのと同じ意味になります。端的に言えば、「一社一社の銘柄を選ばずに市場全体をまるごと買う」イメージです。

インデックス投資の最大のメリットは、「平均点をそのまま手に入れられる」ことにあります。平均点というと物足りなく聞こえるかもしれませんが、前章で述べた通り、市場平均(例えばS&P500指数のリターン)は多くのプロさえ長期には上回れない高い壁です。つまり、市場平均を確実に得ることは、かなり優秀な成績だと言えます。実際、『お金は寝かせて増やしなさい』の著者で投資ブロガーの水瀬ケンイチ氏も「アクティブファンドの8割以上はインデックスファンドの成績に負ける」と指摘し、だからこそ金融機関は手数料稼ぎにならないインデックスファンドをあまり勧めないのだと述べています。金融機関の販売戦略はさておき、投資家目線では「勝率8割超」のインデックス側に立つ方が賢明なのは明らかでしょう。

もう一つ、インデックス投資が強力な理由に「手間がかからない」点があります。個別株投資では、企業の財務分析や業界研究、経済情勢の予測など膨大な勉強と管理が必要です。一方、インデックスファンドを「買ったら基本的に放置でOK」なのは大きな利点です。市場全体に投資しているので、細かい売買判断を繰り返す必要がなく、一度方針を決めれば忙しい人でも無理なく続けられます。実際、「カレーを煮込むときのようにじっと待つだけでよい投資」と表現されるほど、インデックス投資は腰を据えて放置しやすいスタイルです。変に焦って売買したり、「一発当てよう」と投機に走ったりしないことが、結果的に失敗を減らしリターンを安定させます。これは、投資で勝つ秘訣は“何もしない”ことだとも言い換えられます。実際、ウォーレン・バフェットですら自身の死後、妻のための信託資産はインデックスファンドに入れるよう勧めているほどで、長期的には下手な売買より「何もしないで指数に連動させる」のが堅実だと示唆しています。

さらに言えば、「市場全体を信じる投資法」は凡人でもできると強調されています。個々の企業の盛衰を見極める天才でなくても、世界経済の成長を信じて幅広く投資すれば、その平均成長の恩恵を受けられるからです。著名な投資本『父が娘に伝える30の投資の教え』でも、「最もシンプルな戦略は世界の株式市場をまるごと買うことだ。そうすればグローバル経済が成長すれば確実に恩恵を受けられる」という趣旨が語られています。要するに、国や業界ごとの細かな予想に時間を割くより、「全体が成長するか」を考えてシンプルに市場全体を買っておく方が再現性が高いのです。

最後に、インデックス投資の効果を裏付ける実証データを見てみましょう。米国のS&P500指数に1995年初めに1000万円を投資し、約30年間何もしなかった場合、リーマン・ショックやコロナ・ショックなどを乗り越えて資産は約2億3,300万円にまで成長したという試算があります。ところが、この30年間で「最も上昇したたった10日間」を逃す(=その10日だけ市場にいなかった)だけで、資産は約1億600万円に半減してしまいました。さらに「最高の30日間」を逃すと約4,400万円、つまり利益の80%以上を失う結果となります。全取引日のうちごくわずか0.4%程度の日数(30/約7500日)がリターンの大半を生み出していたのです。このデータが示すのは、市場に居続けて平均を取り損ねないことの重要性であり、裏を返せば頻繁な売買でその「稲妻のような瞬間」を逃すリスクの大きさです。インデックス投資で市場に常に参加し続けることが、いかに有利かが数字からも読み取れるでしょう。

第3章:長期投資と複利の魔法 – 時間を味方に

インデックス投資の真価を発揮させるためには、長期投資が欠かせません。長い時間をかけて資産を育てることで、複利(利益の再投資による利益成長)の効果が雪だるま式に働くからです。金融の世界では「複利は人類最大の発明」とも言われるほど強力な力を持ちます。例えば、ペンシルベニア大学のジェレミー・シーゲル教授の研究によれば、1802年から2002年までの約200年間で米国株式の実質リターン(インフレ調整後)は年平均6.9%に達し、債券や金(ゴールド)、現金など他の資産クラスを大きく上回りました。この驚異的な長期リターンの背景にあるのが、企業の利益成長と配当再投資による複利効果です。長期で株式に投資し続け配当も再投資すれば、時間とともに富は指数関数的に増大することが実証されているのです。

複利の効果を最大限に引き出した実例として、モーガン・ハウセル著『サイコロジー・オブ・マネー』の冒頭に紹介されている二人の対照的な人物がよく引用されます。一人は清掃員の男性で、生涯高給取りではなかったものの質素に暮らしコツコツ投資を続け、92歳で亡くなる時に約10億円もの資産を残しました。もう一人はエリート銀行家で巨額の収入を得て豪邸に住んでいましたが、リーマン・ショックを機に破産してしまいました。この対比が示すのは、富を築く上で重要なのは才能や知識よりも「時間をかけて投資を続ける」態度だということです。地道に長期投資を続けた清掃員は複利の恩恵を最大限に受け、一方、高学歴であっても無謀なリスクを取った者は富を失ったのです。

超長期投資の成功例としては、世界的な投資家ウォーレン・バフェットのケースも有名です。彼は11歳で株式投資を始め、現在90代になるまで80年以上も投資を続けています。バフェットの莫大な富(世界有数の資産家であること)は、その卓越した銘柄選択眼だけでなく、「極めて長い期間、株式市場に居続けた」ことに大きく起因します。彼自身も「自分がこれほどまで富めるのは、早く投資を始めて長く続けてきただけだ」と述べていますが、その背景には何度も訪れた不況や暴落を乗り越えて途中で投資をやめなかったという事実があります。実際、バフェットの投資歴を見ると、その間に何度も株式市場の暴落がありましたが、彼は一貫して市場に留まり続けました。長期にわたり市場から退場しなかったからこそ、複利の力を十分に発揮でき、資産が爆発的に増えたのです。

長期投資を阻む一番の敵は、「気が短いこと」「目先の上下動に振り回されること」です。私たちはつい1年や2年で成果を求めがちですが、投資では「すぐに結果を求めず、気絶しているくらいがちょうどいい」とも言われます。株式市場は短期的には変動が激しく予測困難ですが、10年、20年というスパンで見れば経済成長とともに上昇傾向を示してきました。実際に歴史を振り返ると、どの10年区間を取っても株価指数が上昇して終わったケースが大半です (もちろん例外的な低成長期もありますが、長期ではプラスに収束する傾向があります)。時間は長期投資家の味方であり、投資において最大の武器は「できるだけ早く始め、長く続けること」だというのは、多くの名著が共通して伝える教えです。

具体的に長期投資の威力を感じる例として、毎月の積立投資があります。仮に毎月一定額を20年、30年と積み立てていけば、たとえ1回あたりの投資額は小さくとも、複利で運用益が再投資されることで最終的な資産額は大きく膨らみます。市場が一時的に低迷している時期でも買い続ければ、その安価な価格で買った分が後の上昇局面で大きな利益をもたらします。これについてニック・マジューリの著書『JUST KEEP BUYING』は、「市場の完璧なタイミングを狙うより、とにかく買い続ける方が最終的なリターンは高くなる」とデータで示しています。彼は、市場の高騰時に売って暴落時に買い戻そうとする試みは、平凡に買い続ける戦略のパフォーマンスを下回ると指摘しています。つまり、時間を味方につけて長期で粘り強く投資する人が最終的な勝者になるのです。

第4章:タイミングではなく時間に投資する – 継続投資の重要性

投資初心者にとって魅力的に映るのが「マーケットタイミング」、すなわち安く買って高く売ることで一気に儲けようという発想です。しかし、現実には将来の市場の上下を正確に予測し続けることは不可能に近いとされています。先述のエリスの言葉を借りれば、プロですら予測を外して市場平均に負けているのですから 、我々が「次の暴落はいつか」「いつが底か」などと的中させるのはほとんど無理ゲーなのです。一時的にうまくいったように見えても、それを長年繰り返すことは極めて難易度が高いと言わざるを得ません。

スタンダード&プアーズ社が公表するSPIVAレポート(米国の投資信託の成績比較)によれば、過去15年間で米国大型株ファンドマネージャーの92%以上が市場平均(S&P500指数)に負けたというデータがあります。ファンドマネージャーたちは膨大な情報を分析し、最適な売買タイミングを追求しているプロ中のプロですが、その大半がインデックス(市場平均)に勝てなかったという現実は示唆的です。つまり、市場の短期的な変動を予測して売買のタイミングを計ることがいかに難しいかがわかります。これは個人にもそのまま当てはまる話で、我々がニュースや経済予測に基づいて「今が買い時だ」「そろそろ売り逃げよう」と考えるとき、既に市場にはそれ以上の速度と精度で動いているプレーヤーがいるのです。

マーケットタイミングの難しさを示す例として、第2章で触れた「最高の数日間を逃すだけでリターンが激減する」データが再び参考になります。最も大きく市場が上昇した日(絶好の売り時と言える日)は、多くの場合「直前に市場が大きく下落した直後」に訪れています。例えば、2008年のリーマン・ショック時には世界経済崩壊の危機で株価が暴落しましたが、その直後の10月13日と10月28日にS&P500は1日で11%以上も急騰しました。2020年3月のコロナ・ショックでも、底を打った直後の3月24日にS&P500が1日で9.38%上昇し、その後猛烈なV字回復を遂げています。暴落局面で恐怖に駆られて市場から退場してしまった投資家は、こうした「稲妻が輝く瞬間」をことごとく逃してしまい、その後の力強い回復の果実も得られません。結局のところ、暴落の底で売り、回復途中に買い戻すという最悪の取引になりがちなのです。これでは本来得られたはずの利益を自ら削ってしまう結果になります。

したがって、個人投資家にとって重要なのは「タイミングではなく時間に投資する」という発想です。完璧なタイミングを狙うのではなく、常に市場に居続けることで長期的な成長を享受するのです。ドルコスト平均法(一定額を定期的に投資する方法)も、この考え方に適した手法です。毎月または毎週、決まった金額をインデックスファンドに積み立てることで、市場の上げ下げに関わらず平均購入単価を平滑化できます。値下がりしている時期には多くの口数を買い、値上がりした時期には少ない口数しか買えませんが、長期間続ければ自然と平均的な価格で買い付けることになります。「高値掴み」と「安値での大量購入」が適度にミックスされ、結果的に合理的な価格で継続投資できるのがドルコスト平均法の利点です。

継続投資の威力は、多くの名著でゴールデンルールとして紹介されています。『JUST KEEP BUYING』はそのタイトル通り「とにかく買い続けろ」というシンプルな黄金律を提唱しています。著者のニック・マジューリ氏はデータサイエンティストでもあり、過去の膨大な市場データ分析から「一度投資を始めたら、市場から資金を引き上げずに買い増しを続けること」が最も再現性高く資産を増やすコツだと結論付けています。相場が下落して不安なときにも買い続け、相場が過熱しているときにも機械的に積み立てを止めない。この一見退屈で感情を殺すような行為が、実は誰にでもできる最良の投資行動だというのです。その理由は、感情に基づいて売買するとしばしば裏目に出るからです。恐怖で売り、強欲で買うという人間心理の罠にはまるより、ルールベースで機械的に投資を続ける方がはるかに成果が良いことが証明されています。

まとめると、「市場に居続け、買い続ける」こと以上に確実な戦略はありません。一発のタイミングで大勝ちしようとするのではなく、コツコツと時間をかけて富を築く姿勢です。投資では「退場しない者が最後に勝つ」という格言がありますが 、これはまさに継続投資の重要性を言い表しています。大暴落に見舞われても市場から撤退せず、むしろチャンスと捉えて買い増せる人が、長期的に大きなリターンを手にしているのです。市場の上下に一喜一憂せず、時間という味方を信じて粛々と積み立てる――それが凡人でも資産形成で成功できる秘訣です。

第5章:分散と低コスト – 凡人がリスクを減らす鍵

インデックス投資の優位性を支える2大要素が、「分散効果」と「低コスト」です。これらは投資初心者こそ意識すべきポイントであり、凡人がプロに近づくための重要な武器となります。

まず分散投資について。分散の原理はシンプルで、「卵は一つのカゴに盛るな」という格言に集約されます。特定の銘柄や資産クラスだけに集中投資すると、その対象に悪いことが起これば資産全体が大打撃を受けます。逆に様々な資産に幅広く投資しておけば、どれか一部が不調でも他が補ってくれるため、ポートフォリオ全体のリスクが低減します。インデックスファンドはまさにこの分散の効果を手軽に実現できるツールです。例えばS&P500に連動するファンドであれば、一つの商品を買うだけで米国を代表する500社にまとめて投資することになります。全世界株式のインデックスファンドなら、先進国から新興国まで数千銘柄規模の「地球経済全体」に分散投資することが可能です。一つのファンドで「自分ではとても管理しきれない数の銘柄」を持てるのがインデックス投資の強みであり、個別株投資にはない安心感を生みます。

分散投資の価値は、モーガン・ハウセルも強調しています。彼は「幅広い数の株に投資せよ」という章で、投資でもビジネスでも大成功を収めるのは全体のごく1割程度であり、残りの大半は平凡か失敗に終わるものだと述べています。絵画収集家の逸話を引き合いに、1万点の作品のうち99%は価値がなくても1%にピカソやゴッホ級の当たりがあれば全ての損を帳消しにできる、と彼は説明します。これを投資に当てはめれば、「次に世界を代表する企業がどれか分からないからこそ幅広く投資する」のがインデックス投資の考え方であり、仮に投資先の半分以上が振るわなくても一部の大成功企業があれば十分なリターンを得られる、としています。実際、歴史的にも市場のリターンの大部分は極少数のスーパー株(巨大な成長を遂げた企業)によってもたらされていることが知られています。したがって、我々凡人は幅広くインデックスを買うことで、その「当たり」を漏れなく拾うことが重要なのです。逆に個別株に集中すると、その当たりを引ける確率は低く、外れた場合の痛手は甚大です。実際に「この銘柄1本に1,000万円賭けた友人が暴落で資産を飛ばした」という具体例も紹介され、「やはり分散は大事だ」と痛感したというエピソードが『敗者のゲーム』で語られています。分散投資は退屈で地味に思えても、資産を守る上での保険であり、凡ミス(大損)を防ぐ最善策なのです。

次にコストの問題です。投資信託やETFには信託報酬(運用管理費用)というコストが常にかかります。また頻繁に売買すればそのたびに手数料や税金が発生します。これらのコストは一見小さく見えても、長期ではリターンに大きな差を生みます。手数料は見えにくい敵であり、できるだけ削減することが投資の成績を高める秘訣です。インデックスファンドは一般にアクティブファンドより手数料が低く抑えられている場合が多く、近年は特に信託報酬が年0.1~0.2%程度という超低コスト商品も登場しています。例えば、日本の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」のようなファンドは業界最低水準の手数料で全世界に投資できるため、名著でも具体的な有力候補として紹介されています。コストが低ければ低いほど、投資家の取り分(実質利回り)は高くなるので、商品選択において手数料の差は看過できません。

また、アクティブ運用は売買回数が多くなる傾向から売買手数料や税金などコスト面で不利です。一方、「買って持ち続ける(バイ・アンド・ホールド)」戦略をとるインデックス投資は、余計な売買をしない分コスト的にも効率的です。加えて、アクティブファンドは運用会社が調査や人件費にコストをかけるため信託報酬が高くなりがちですが、インデックスファンドは人的リソースが少なくて済む分低コストで提供できます。結果として、「安いコストで効率的なポートフォリオを組める」のがインデックス投資であり、橘玲氏の『臆病者のための億万長者入門』でもまさにその点が「世界株投資(=インデックス投資)の利点」として挙げられています。

整理すると、凡人が投資で大きな失敗を避け着実に資産形成するには、(1) 広く分散してリスクを抑えることと、(2) 無駄なコストを極力かけないことが極めて重要です。インデックス投資はこの二つを同時に満たす手段として、理論的にも経験的にも支持されています。「長期・分散・コスト管理」は投資の三種の神器とも言われますが 、インデックス投資はそれらを体現したアプローチなのです。凡人こそ、この王道を踏み外さずに歩むことで、高望みはせずとも99点の資産運用を実現できるでしょう。

第6章:行動ファイナンスの教訓 – 感情に打ち勝つ投資術

理論やデータがどれほどインデックス投資の有効性を示しても、実際の投資行動に移す際には人間の心理的な壁があります。投資は突き詰めれば人間の感情との戦いでもあります。ここでは、行動ファイナンスの観点から、凡人が陥りがちな心理的罠とその克服法について述べます。

市場が大きく動く局面では、私たちの脳裏には「恐怖」と「欲望」という二大感情が渦巻きます。例えば、株価が急落すると、自分の資産が減っていく不安から「これ以上損したら大変だ、今すぐ逃げなければ!」という恐怖が湧き起こります。これは脳が生命の危機と同等のストレス反応を示すためで、理性より本能が優先され「とにかく売って現金化せよ」という衝動に駆られるのです。逆に、株価が高騰し周囲が沸き立っているときには「この波に乗り遅れるな」「もっと儲けたい」という欲望が刺激され、高値でも飛び乗りたくなる誘惑にかられます。

しかし、この感情に基づいた行動こそが投資成績を台無しにする元凶だと、多くの研究が示唆しています。高いときに買い、安いときに売っていては利益が出ないのは明らかです。前章まで繰り返し述べてきた「長期・積立・ほったらかし」を実践するには、まさにこの人間の本能的な感情に逆らう必要があります。冷静な頭では「暴落時こそ安く買えるチャンス」と分かっていても、実際に暴落が起きると恐怖で体がすくんで買えなくなる。あるいは、バブル的な上昇局面で「さすがに加熱しすぎだ」と頭で理解しても、周囲の熱狂を見ると焦って参加してしまう。人間の心理は投資において最大の敵なのです。

モーガン・ハウセルは「決して市場から退場しない者が勝つ」と述べています が、そのためには感情をコントロールし、どんな局面でも一貫した行動を取り続けることが求められます。具体的な対策としては、事前にルールを決めておくことが有効です。例えば「株式市場が●%下落しても決して全売却しない」「毎月○日に一定額を買い付ける」といったルールを自分に課し、それを厳守するのです。こうすれば、いざという時に感情ではなくルールに従って行動できます。実際、歴史的な大暴落の局面でパニック売りを避けられた人は、その後の大きなリターンを享受しています。ナポレオンの言葉に「周りが正気を失っている時に普通のことができる人が天才だ」という趣旨のものがありますが 、投資でもまさに皆が恐怖や欲に飲まれている時こそ冷静さを保つことが肝心です。

また、損失回避バイアスにも注意が必要です。人間は得る喜びより失う痛みに強く反応するため、損を確定したくないばかりに塩漬けにしたり、逆に少しの含み益で満足して早売りしてしまったりします。これを避けるには、損失も利益も客観視する訓練が求められます。インデックス投資は個別株と比べれば値動きが比較的マイルド(分散されているため大暴落しても個別株ほどゼロに近づくリスクが少ない)なので、感情面でまだ耐えやすい面があります。しかしそれでもリーマン級の下落時には資産が一時的に30~50%減る覚悟は必要でしょう。その心構えとして、生活防衛資金を確保しておくことが勧められます。生活費の半年~2年分程度の現金クッションがあれば、投資部分が一時評価減しても心理的な余裕を保てます。「最悪、投資しているお金は10年間引き出さなくても生活に困らない」くらいの状況を作れば、暴落時にも狼狽せず「夜安心して眠れる」状態でいられるでしょう。

感情に打ち勝つもう一つのポイントは、周囲のノイズに惑わされないことです。メディアやSNSでは常に「暴落の予兆」「バブル崩壊か?」など刺激的な見出しが踊り、人々の不安を煽ります。悲観論は往々にしてもっともらしく聞こえるため注目を集めますが 、過去を振り返れば悲観的な予想の多くは現実にならず、市場は成長を続けてきました。悲観論に耳を貸しすぎず、長期的な楽観主義を持つことも重要です。世界経済は戦争や危機を乗り越えつつも、長期で見ればテクノロジーの進歩や人類の努力によって発展し続けています。その大きな流れを信じて、「今は混乱していても、長期的にはきっと良くなる」と楽観する姿勢がなければ、株式というボラティリティの高い資産を持ち続けることは難しいでしょう。過度な楽天主義は禁物ですが、歴史的事実として世界は少しずつ良くなってきたという前提に立てば、株式市場も長期では右肩上がりになる可能性が高いと考えられます。

要するに、凡人が投資で成功するには自らの感情と適切に向き合い、制御する術を身につけることが不可欠です。そのための具体策として、インデックス投資という仕組み自体が人間の弱点を補ってくれる面があります。自動積立や長期ほったらかしを選べば、頻繁に判断を下す必要がなくなるため感情が介入する余地が減ります。また、あらかじめルールを決めておきブレないこと、自分のリスク許容度(どれくらいの評価損に耐えられるか)を事前に確認しておくことも有効です。例えば株式100%では落ち着かない人は債券や現金をポートフォリオに含めるなど、睡眠を妨げない範囲で資産配分を調整すると良いでしょう。最終的には、「どんな局面でも市場に居続ける」ために自分を律することが肝心であり、それが凡人を勝者に近づける心理戦略なのです。

第7章:シンプルさと再現性 – 忙しい人でもできる自動化投資

これまで述べてきたように、インデックス投資は理論的にも実践的にも非常に有効な手法ですが、さらに特筆すべきはそのシンプルさと再現性です。金融の高度な知識がなくても、また日々相場に張り付く時間がなくても、誰もがほぼ同じ方法で実行できるという点で、インデックス投資は忙しい現代人に最適な資産運用法と言えます。

多くのビジネスパーソンは日中仕事に追われ、マーケットの動きを逐一チェックしたり銘柄研究に何十時間も割いたりする余裕がありません。また、複雑なデリバティブ取引や不動産投資のように高度な専門知識を習得するのも現実的ではないでしょう。インデックス投資は、そうしたハードルを一気に下げてくれます。

なぜなら、「特定の商品を選んで積み立てる」という極めて単純なステップで完結するからです。たとえば、証券会社で世界株式インデックスファンドをひとつ買い付け、あとはそれを毎月自動積立設定にしておけば、基本的にやることはそれだけです。難しい判断はプロ(指数の算出者やファンドマネージャー)が裏側でやってくれていますし、市場全体に投資する以上、「どの銘柄を買うか」など頭を悩ませる必要もありません。非常にシンプルなルールに従うだけで、誰でも同じ市場平均リターンを獲得できるという点で、公平で再現性の高い手法なのです。

この「シンプルさ」の価値は、実は多くの投資本で繰り返し強調されています。橘玲氏は「もっともシンプルな戦略」として世界株インデックスへの投資を挙げ 、「金融商品をあれこれ最適組み合わせを考えても答えは誰にも分からない。だったらシンプルに世界経済をまるごと買えばいい」と述べています。ニック・マジューリ氏もまた、データを示しつつ「投資の黄金ルールは驚くほどシンプルで、『買い続けること』だ」と断言しました。さらに『トゥー・ビー・リッチ』(ラミット・セティ著)では、家計管理と資産運用の自動化を説き、「複雑な投資テクニックに手を出すのではなく、少ない時間で成果を最大化する仕組みを作ろう」と提案しています。具体的には、給与が入ったら自動的に一定額が投資口座に回るよう銀行口座を設定し、あとは年齢に応じ資産配分を自動調整してくれるターゲットデートファンド(※ライフサイクル型のインデックスファンド)など「ほったらかしで最適化してくれる商品」を活用せよといった指南です。これなら専門知識がなくても始められ、忙しい人でも運用が継続できます。まさに「家計と資産形成の自動化」によって、寝ている間にもお金が増える仕組みを作り上げることが、凡人でもリッチな生活を手に入れるコツだと説いているのです。

日本においては、つみたてNISA制度(2024年からは新NISAとして拡充)やiDeCo(個人型年金)など、長期の積立投資を後押しする制度が整備されています。これらを使えば、非課税メリットを享受しながらインデックスファンドを積み立てることが可能です。筆者である水瀬ケンイチ氏は、ご自身が2000年代初頭からインデックス投資を実践し、当時は制度や環境が未整備の中で工夫しながら続けてこられましたが、現在は「米国並みかそれ以上に環境が整った今なら、じっくりやれば資産形成はずっと容易になった」と述べています。実際、水瀬氏自身は普通のサラリーマンでありながらブログで情報発信しつつインデックス投資を15年以上継続し、資産1億円(いわゆる“億り人”)を達成されています。彼は決して金融の専門家ではありませんが、凡人が本業のかたわら無理なく続けられる投資法としてインデックス積立を貫いた結果、大きな果実を得た好例と言えるでしょう。

再現性という観点では、「誰がやってもほぼ同じ結果になる」という点で、インデックス投資は極めてユニークです。例えばプロのファンドマネージャーに運用を任せると、その腕前次第で結果は良くも悪くも大きくブレます。しかしインデックスファンドに投資する限り、あなたも私も得られるリターンは指数と同じです。知識や経験の差によるブレが少なく、平均への回帰性が高いのがインデックス運用なのです。実際、「市場が暴落しても平均への回帰が起こるため、インデックスファンドなら長期で取り戻せる」とエリスも指摘しています。たとえタイミングが悪く高値掴みしてしまっても、十分な時間を置けば市場平均は回復し新高値を更新してきた歴史があります。ゆえに、誰がいつ始めても長期さえ確保すれば、それなりの成果が得られる可能性が高いのです。

最後に、「投資は人生の全てではない」ことも強調したいポイントです。インデックス投資がありがたいのは、日々の労力や精神的エネルギーをあまり割かずに済む点です。お金は大事ですが、お金ばかり気にして神経をすり減らしては本末転倒でしょう。インデックス投資によって資産形成を半ば自動操縦にしてしまえば、あとは本業や趣味、家族との時間に集中できるという副次的メリットがあります。モーガン・ハウセルも「お金で買える最大の価値あるものは自由だ」と述べています が、まさに経済的不安を軽減しつつ自分の時間を取り戻すために、投資はシンプルで省力的であるべきです。何年も勉強し続けなければ回せないような複雑な投資法は、多忙な一般の人には持続可能ではありません。その点、インデックス投資は「一度方針を決めたら後は寝かせて増やすだけ」なので 、精神的にも時間的にも負担が小さいのです。こうして得られた余裕を本業のキャリアアップや自身のスキル向上に投資すれば、収入自体を増やすこともでき、一層堅固な家計基盤を築けるでしょう。

以上、インデックス投資のメリットを様々な角度から見てきました。結論として浮かび上がるのは、「インデックス投資は平凡な私たちにとって極めて合理的で賢明な選択である」という共通認識です。負けない戦略で市場平均を取りにいき、長期・分散・低コストで複利の力を最大化し、感情に惑わされずシンプルに続ける。この原則さえ守れば、忙しい人でも投資の成果を享受できるでしょう。最後の章では、ここまでの内容を踏まえて「結局何をすればいいのか?」という実践のポイントを箇条書きでまとめます。今日からすぐにでも始められるシンプルなステップばかりですので、ぜひ参考にしてください。

最終章:ここだけ実行すればOK – 実践サマリー

忙しくて時間がない人でも、以下のポイントさえ押さえれば誰でも再現性高く資産形成をスタートできます。難しい理論をすべて理解できなくとも、まずは行動あるのみです。「ここだけ実行すればOK」という実践ステップをまとめましたので、ご自身の状況に合わせて今日から始めてみましょう。

  • インデックスファンドを選ぶ: 国内外の株式市場全体に連動する低コストのインデックスファンドを1本用意します(例:全世界株式やS&P500連動の投資信託)。商品選びに迷ったら、信託報酬が低く純資産が大きいものを優先しましょう(多くの専門家が具体的商品名を挙げていますが、代表的なものを選べばまず間違いありません)。
  • 毎月の積立を自動化: 給与天引きや銀行の自動振替設定を使って、インデックスファンドへの定期積立を始めます。額は無理のない範囲で構いません。重要なのは機械的に買い続ける仕組みを作ることです。つみたてNISAやiDeCoが利用できるなら是非活用し、非課税枠内でコツコツ積み立てましょう。
  • 長期ホールドのマインドセット: 一度買ったら基本的に売らないことを自分に誓います。少なくとも10年以上の長期で運用する前提で、短期の評価損益は気にしません。途中で暴落があっても慌てず、むしろスポットで追加投資できるくらいの余裕を持てると理想的です(難しければ追加は無理せず、積立だけは止めないでください)。
  • 生活防衛資金の確保: 投資資金とは別に、生活費の数ヶ月~1年分程度の現金は預金などですぐ使えるように置いておきます。これにより、投資部分が一時的に大きく目減りしても生活への不安から悪いタイミングで売却しなくて済みます。自分と家族の安心を担保した上で、余裕資金で運用しましょう。
  • 分散されたポートフォリオ: 基本は株式のインデックスですが、自分のリスク許容度に応じて債券や現金も組み合わせます(ターゲットデートファンドなどを活用すれば自動で調整可能です )。最優先は継続することなので、値動きに耐えられる配分にしましょう。ただし分散しすぎて複雑になる必要はありません。株式中心で十分ならそれで構いません。
  • 投資の自動化・放置: 一度設定を終えたら、あとは基本的にやることはありません。定期的に資産状況を確認するのは構いませんが、マーケットニュースに過剰反応して売買しないよう注意します。「じっと待つ」のも立派なスキルです。忙しい方ほど、下手に触らず放置できるインデックス投資の利点を活かしましょう。
  • 知識習得とメンタルケア: 可能な範囲で良書を読み、投資の王道について知識を深めるのは有益です。しかし深追いしすぎる必要はありません。一度基本を押さえたら、あとは自分の感情をコントロールすることに注力しましょう。市場が悲観一色でも過度に落ち込まない、楽観的すぎる報道にも浮かれすぎない、といった冷静さが大切です。投資以外の人生も充実させ、心の安定を図ることが長期投資成功の秘訣です。

以上のステップを踏めば、複雑なテクニックや莫大な勉強時間がなくとも、誰でもインデックス投資による資産形成をスタートできます。最も大事なのは「始めること」と「続けること」です。10年20年後、きっと「難しい勉強をしなくてもこれだけ資産が増えた」と実感できるはずです。インデックス投資は凡人に与えられた強力な武器です。あとはその武器を手に取り、一歩踏み出すだけ。今日がこれからの人生で一番若い日です。ぜひ、小さくても良いので今すぐ行動を起こしてみてください。それが将来の大きなリターンへの第一歩となるでしょう。

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