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子ども・時間・お金から考える日本の高校生の未来不安を解きほぐす

目次

はじめに

今日の日本の高校生の多くは、自分の将来について漠然とした不安を抱えています。ある調査では、中高生の約8割が「将来に対して不安を感じている」と答えました。進路選択や就職がうまくいくだろうか、自分に十分な能力があるのか、将来お金に困らないだろうか、といった様々な心配事が挙げられています。実際、将来について考えるとき不安に思う社会的な要因のトップは「お金・物価の問題」で約6割、次いで「就職できるかどうか」や「働き方(ブラック企業や長時間労働など)」が半数前後を占めています。このように高校生たちは、経済的なことから職業のこと、自分自身のことまで幅広い不安を感じているのです。

しかし一方で、彼らが思い描く「理想の未来」は決して大それた夢や野心に満ちたものばかりではありません。高校生たちは「自分らしく、安心して暮らせる日常」を送りたい、といった安定志向の等身大の価値観を大切にしています。つまり、大きな成功よりも日々の安定や自分らしさを重視しているのです。このギャップ──将来への不安の大きさと、望んでいる未来の安定──を埋めるにはどうしたらよいでしょうか。

本レポートでは、文系的な視点から日本の高校生が感じる将来不安を「子ども」「時間」「お金」という3つのテーマに沿って解きほぐしてみたいと思います。これら3つのテーマは一見バラバラのようですが、実は私たちの人生設計や社会のしくみに深く関わっています。子どもの章では少子化や家族観など人口動態の問題を扱い、時間の章では人生の時間の使い方や働き方といった社会構造、お金の章では経済の仕組みや暮らしの安心について考えます。それぞれの章で、「なぜそれが大事なのか」「自分の不安とどう関係しているのか」「それについてどう考えればいいのか」「自分にとってのヒントは何か」を順番に示しながら、優しくかみくだいて説明していきます。

背景には、日本社会が直面する少子高齢化 、経済の停滞や変化、そして世界の中での先進国と発展途上国の違いといった大きな社会構造があります。難しく感じるかもしれませんが、身近なたとえ話やイメージを使って、高校生の皆さんにも分かるようにお話ししますね。後半では、将来に向けてどのような戦略的思考や行動が必要になるか、具体的な提案もしてみます。そして最終章では、「自分の未来をどう描けばいいか」について、みなさんが前向きな一歩を踏み出すヒントとなる指針をお届けできればと思います。

それでは、「子ども」「時間」「お金」の順に、一緒に将来への不安を紐解いていきましょう。自分の人生と社会を見つめ直し、未来への見方が少しでも明るくなるような講義の始まりです。

第1章 子ども:人口減少と未来の家族

なぜ大事か

まず最初のテーマは「子ども」です。ここで言う「子ども」とは、自分が将来もちたい子どもや家族のこと、そして社会全体で見た子どもの数、つまり人口の問題を指します。なぜこのテーマが大事なのでしょうか?それは、「子ども」は未来の社会を支える存在であり、自分たちの人生設計にも深く関わるからです。

日本では今、少子化(しょうしか)が大きな課題となっています。少子化とは簡単に言えば「生まれてくる子どもの数が減っている」ことで、結果的に人口が減少し高齢者の割合が増える現象です。例えば、今の日本では1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)は約1.3人程度と言われ、人口を維持するのに必要とされる2.1を大きく下回っています。過去を振り返ると1970年頃には1人の高齢者を支えるのに若い世代が8人以上いましたが、2010年にはそれが2.6人となり、2050年にはほぼ1人の若者が1人の高齢者を支えるような社会になると推計されています。つまり、おじいちゃんおばあちゃん1人を私たち若者1人でおんぶして支えるような、「肩車」型の社会になるかもしれないのです。このように子どもの数が減ると、社会全体で働く人の数も減り、将来的に経済の活力や年金など社会保障制度にも影響が及ぶと心配されています。

高校生のみなさんにとっては、「日本の人口が減る」と聞いても実感がわかないかもしれません。でも実は、同世代の若者自身もこの問題の重要性に気づいています。ある国際調査では、日本の若者が考える自国の重要な課題の第1位に「少子化」、第2位に「高齢化」が挙がりました。それだけ「子どもが少ない」という現象は日本社会の将来に直結する大事な問題だと認識されているのです。

どう関係しているか

では、この「子ども(少子化)の問題」は、皆さん個人の将来不安とどう関係しているのでしょうか。一言でいうと、社会全体の子どもの減少が、皆さんの将来の暮らしや生き方に影響を与えるからです。

例えば、子どもが減り高齢者が増える社会では、皆さんが大人になって働く頃には労働力人口が今より少なくなっています。働く人が少ないと、一人ひとりに求められる役割や負担が大きくなる可能性があります。先ほど触れたように、将来は一人の若者が一人のお年寄りを支えるような状況になるかもしれません。そうなると、「自分たちの世代で社会を支えていけるのだろうか」という不安につながりますよね。実際、高校生が将来について不安に思うことの上位に「親世代のように結婚して家庭を持てるのか」という声や、「将来結婚できるか心配」という意見も見られます。背景には、「経済的に余裕がないと結婚や子育ては難しいのでは」という心配や、「そもそも結婚・子育てする人自体が減っていくのでは」という社会的な不安があります。

もう一つ身近な例を考えてみましょう。皆さんの周りの大人たち(親世代や先生など)を見て、「なんだか大変そうだな」「疲れていそうだな」と感じたことはありませんか。ある調査によると、中高生は今の大人に対して「大変そう」「疲れている」というイメージを強めているそうです。そして、「結婚して家庭をもつより、自分の自由な時間やお金を大事にしたい」と考える若者も増えています。高校生の過半数(53%)は「結婚せず自由な時間やお金がある人生」の方が幸せだと答えており、自由な時間や経済的余裕を重視する傾向がうかがえます。また、中学生と高校生とで意見が分かれましたが、高校生の約52%は「子どもがいるけれど自由な時間やお金は少ない人生」を幸せだと選びました。これは、「将来家庭を持ちたい気持ち」と「自分の時間・お金も大事にしたい気持ち」の間で揺れている若者像とも言えるでしょう。つまり、少子化という社会問題は、皆さん自身の「将来、自分は結婚して子どもを持つべきだろうか?」という個人的な悩みともつながっているのです。

子どもや家庭の将来像に関する不安は、「もし結婚して子どもを持ったら、自分の自由な時間やお金がなくなってしまうのでは?」という心配として表れることがあります。逆に、「結婚しなかったら寂しい人生になるのでは?」という不安もあるかもしれません。日本社会ではこれまで「いい学校に行って、就職して、結婚して家庭を持つ」という人生モデルが当たり前とされてきました。しかし少子化が進み人々の価値観が多様化する中で、その当たり前が揺らいでいるのです。皆さんの中には、「自分は本当に結婚したいのかな?」「子どもを持つのが幸せの条件なのかな?」と迷う人もいるでしょう。それは決しておかしなことではなく、社会全体が今その問いに直面しているのだと言えます。

どう考えればいいか

それでは、「子ども」の問題について私たちはどう考えればいいのでしょうか。ポイントは2つあります。(1)社会の課題としての少子化を正しく理解すること、(2)自分自身の人生観・家族観を見つめ直してみることです。

まず(1)について。少子化は皆さん一人ひとりのせいで起きているわけではなく、長年の社会の変化によるものです。結婚や出産に対する価値観の変化、経済的な不安定さ、子育てにお金や時間がかかりすぎること、働きながら子育てしづらい環境など、いくつもの原因が重なっています。例えば、「結婚は人生の選択肢の一つであって必ずしもするものではない」という考えが広まり、結婚しない人が増えました。

また若者の経済状況が不安定だと、結婚や子育てに踏み切れない人も増えます。さらに「子育ては大変でお金もかかる」というイメージ や、保育園など子育て環境の不足 も影響しています。政府や社会も問題を認識し、育児休業制度を拡充したりしていますが、それでも男性の育休取得はまだ低い(2018年で6%程度)など、解決には時間がかかっています。つまり、少子化は皆さん個人の責任ではなく、社会全体で取り組むべき構造的な問題なのです。このことを知れば、「自分が結婚しないから日本がダメになる、なんてことはない」と少し気が楽になるかもしれません。ただし逆に言えば、社会としては子育てしやすい環境づくりや若者世代の経済安定が急務だということも覚えておいてください。皆さんが大人になる頃、今より子育てしやすい社会になっているよう、今の大人たちも努力を重ねています。

次に(2)について。自分自身の家族観や人生観をじっくり考えてみましょう。将来結婚したいか、子どもが欲しいかという問いに今すぐ答えを出す必要はありません。ただ、「もし将来家庭を持つとしたらどんな暮らしがしたいか」「家庭を持たない人生もあり得るとしたら自分はどう生きたいか」と想像してみるのは有意義です。例えば、家族を持つ人生には暖かさや喜びがある一方で、自分の時間が減ったりお金の負担が増える現実があります。逆に独身でいる人生は自由と気楽さがある反面、老後の孤独や周囲からの偏見があるかもしれません。それぞれメリット・デメリットがあるので、「何が自分にとって大事か」を軸に考えてみると良いでしょう。大事なのは、世間の固定観念にとらわれず自分の心に正直になることです。「みんな結婚するから自分もしなきゃ」ではなく、「自分はどうしたいか」をまず尊重してください。

そして、人生の選択は一度きりではありません。仮に若い頃は結婚せず仕事に集中しても、後で結婚する人もいますし、その逆もあります。子どもを持つかどうかも、状況や気持ちが変わることもあります。人生は長い目で見れば何度でも軌道修正できるという柔軟な考え方も大切です。高校生の時点で「結婚する・しない」「子ども何人」と細かく決める必要は全くありません。「こういう生き方もあるし、ああいう生き方もある。でも自分は今のところ○○のほうに興味があるな」くらいのラフなイメージで十分です。

自分にとってのヒント

子どもの将来や少子化について考えるときのヒントをいくつか挙げてみましょう。

・社会の動きを知ろう: 今起きている少子化や人口減少の流れをニュースや学校の授業で耳にしたら、「自分には関係ない」と思わずに、ぜひ関心を持ってみてください。社会科の延長のように感じるかもしれませんが、将来皆さんが暮らす社会の話です。問題点だけでなく、たとえば政府や企業がどんな対策をしているか(子育て支援策や働き方改革など)も調べてみると、「社会は少しずつ良くしようと動いているんだな」と希望が持てるかもしれません。

・いろんな大人の話を聞こう: 自分の両親や身近な大人がどういう思いで結婚や子育てをしているのか、さりげなく聞いてみるのもヒントになります。苦労話だけでなく、「子どもがいて良かったこと」「独身で良かったこと」など人それぞれ経験があります。それを聞くことで、自分の将来像を描く材料が増えるでしょう。ただし、人の価値観は様々なので、「こうしなさい」と決めつけられたら鵜呑みにする必要はありません。「そういう考え方もあるのか」と参考程度に。

・自分の幸せの形を考える: 最終的には、自分にとって何が幸せかを考えることがいちばんのポイントです。周囲がどうであれ、自分が「こんな人生を送れたら安心だな、幸せだな」と思えるイメージを大切にしてください。例えば「将来はパートナーと二人で穏やかに暮らしたい」「にぎやかな家庭を築きたい」「一人でも趣味や仕事に打ち込んで充実した人生を送りたい」など、どんなイメージもOKです。今はぼんやりしたもので構いません。そのイメージが将来ブレても大丈夫。軸があれば、環境の変化に合わせて軌道修正しながら幸せを追求できます。

・世界の状況も視野に入れて: 日本とは逆に、発展途上国の中には子どもの数が多く人口が増えている国もあります。そうした国では若者が仕事や教育の機会を求めて奮闘しています。日本にいると実感しにくいですが、「若者が多すぎて仕事が足りない」という国もあるのです。一方、日本は若者が少ない分、一人ひとりが貴重な存在です。いずれ社会に出たとき、「自分たち若者の力が必要とされているんだ」と前向きに捉えてみてください。例えば介護や医療など高齢化社会で求められる仕事も増えますし、新しいテクノロジーで少子高齢化の課題を解決するようなチャンスもあります。自分は小さな存在と思わず、社会の貴重な担い手なんだという視点は、未来への自信につながるでしょう。

少子化や将来の家族像について不安を感じるかもしれませんが、大切なのは「自分なりの幸せの形は何だろう?」と前向きに問い続けることです。社会の課題は皆で解決しつつ、皆さん一人ひとりは自分のペースで人生を選べます。このテーマを考えることで、「自分の未来の家族像はこうあってほしいな」というヒントが少しでも見つかれば幸いです。

第2章 時間:人生の時間と働き方

なぜ大事か

次のテーマは「時間」です。時間とは言っても、時計の読み方の話ではありませんよ。ここでは人生における時間の使い方や働き方と自由時間のバランスについて考えていきます。なぜ「時間」が将来を考える上で重要なのでしょうか?それは、時間はお金と同じくらい貴重なリソース(資源)であり、どんな人にも平等に与えられた一日24時間という財産だからです。そして、皆さんが大人になる頃には「人生100年時代」と言われるほど寿命が延びる一方で、働き方や生き方も大きく変わっていくと予想されます。時間の使い方を制する者が、充実した人生を送ると言っても過言ではないでしょう。

振り返ってみると、日本の社会では長い間「時間=仕事に捧げるもの」という風潮が強く、長時間労働が美徳とされる時代もありました。皆さんも「残業」や「過労死(働きすぎによる死亡)」といった言葉をニュースで聞いたことがあるかもしれません。高度経済成長期やバブル経済の頃は、一生懸命働けば豊かになれるという希望があり、多くの人が会社のために長い時間働きました。しかし経済が成熟した現在では、必ずしも働いた分だけ報われる時代ではなくなり、むしろ長時間労働がもたらす健康被害や、生きがいや幸福感の低下が問題視されるようになっています。国も「働き方改革」という形で労働時間の是正や有給休暇の取得推進に動き始め、少しずつ「時間=人生を楽しむためのもの」という考え方へシフトしつつあります。

また、「時間」が重要なもう一つの理由は、人生全体の時間配分が変わってきていることです。平均寿命が延び、今の若い世代は90歳、100歳まで生きることも珍しくない時代になろうとしています。「人生100年時代」とも言われますが、これは裏を返せば時間の使い方をこれまでと変えていく必要があることを意味します。例えば、かつては「学校を卒業したら約40年働き、60代で定年退職して余生を過ごす」というモデルが一般的でした。しかし寿命が延びた今、60代で引退してしまうとその後何十年もありますし、一方でAIなど技術の進歩で仕事の内容自体も変わっていくでしょう。つまり、人生の時間割を自分で再設計する時代が来ているのです。一つの会社で定年まで勤め上げる人は減り、途中で転職したり、学び直したり、あるいは定年後にもう一度新しい仕事に就く人も増えるでしょう。こうした変化に対応するには、自分の時間をどう使うかという意識がとても大事になってきます。

どう関係しているか

では、「時間の問題」は皆さんの将来不安とどう関係しているでしょうか。高校生の皆さんの不安の中には「働き方への不安」や「自分の自由な時間が持てるか」というものもあるのではないでしょうか。実際、先ほどの高校生への調査でも「働き方(ブラック企業や長時間労働など)」に不安を感じる人が45.4%もいました。これは、将来自分が社会に出たときに仕事ばかりの人生になってしまうのではないか、自由な時間がなくなってしまうのではないかという心配と言えます。

皆さんの世代は、SNSやテレビなどで様々な大人の生活を見る機会があります。そこで目にするのは、キラキラと充実した生活を送っている人もいれば、毎日満員電車に揺られて疲れ切っている会社員の姿かもしれません。後者を見れば「こんな大人になりたくないな…」という不安が湧くのも自然なことです。特に日本では「仕事のために私生活を犠牲にしている大人」のイメージが強く、仕事とプライベートの両立(ワークライフバランス)が難しいという先入観があるかもしれません。実際、コロナ禍以前までは夜遅くまで残業しているお父さん・お母さんも多く、「家族と過ごす時間が少なくて寂しい」という声も子ども世代から聞かれました。

こうした現状を踏まえ、高校生の皆さんの中には「将来、趣味や家族との時間を持てるのだろうか?」と不安になる人がいるでしょう。前章で触れたように、結婚や子どもに対して消極的な意見の背景にも「自由な時間が減るのが嫌だ」という思いがありました。また、情報社会ならではの不安もあります。SNSで他人の充実した生活を見ると、自分も常に充実した時間を過ごさなければとプレッシャーを感じたり、逆に時間を無駄にしているように思えて不安になったりすることがあります。現代は情報過多で、「何か生産的なことをしなきゃ」と休んでいても落ち着かない若者もいるようです。

さらに、技術革新も将来の時間の使い方に影響します。AI(人工知能)の発達によって仕事の仕方が変わり、「自分の仕事が将来AIに取って代わられるかも」という不安もあります。AIが得意なことはAIに任せ、人間はより創造的な仕事に時間を使うべきだ…と言われても、「自分はそんな高度なことできるのかな?」と不安になりますよね。これはつまり、自分の時間をどう価値あるものに使うかという問いでもあります。AIやロボットが発達しても、人間にしかできないこと(芸術的な創造や人と人とのコミュニケーションなど)は残ります。将来、それらに時間を使えるよう自分を高めておかなきゃと焦る気持ちが、不安として表れることもあるでしょう。

まとめると、「時間」の問題は働き方の不安(長時間労働で自分の時間が無くなるのでは?という不安)と人生全体の時間配分の不安(長い人生をどう計画すればいいの?という不安)に関係しています。皆さんが感じている「将来の自分の時間」に対する漠然とした不安の裏側には、日本の従来の働き方の課題や、急速な社会変化が潜んでいるのです。

どう考えればいいか

それでは、「時間」というテーマについて前向きに考えるためにはどうすればいいでしょうか。ここでもポイントをいくつか挙げます。(1)時間もお金と同じように大事な資源だと意識すること、(2)自分の時間の優先順位を考えること、(3)変化に対応できる柔軟な時間観を持つことです。

(1)まず、時間を一つの「財産」と考えるマインドセットを持ちましょう。高校生の皆さんはお金の節約術は習っても、時間の節約術はあまり習わないかもしれません。でも、1日は誰にでも24時間しかなく、お金より平等に与えられています。この時間の使い方次第で人生の満足度は大きく変わります。お金は失ってもまた稼げる可能性がありますが、過ぎた時間は取り戻せません。ですから「時間は貴重なもの」という意識を持つことが第一歩です。例えば、一週間の自分の時間の使い方を書き出してみると、意外と無駄にしている時間があるかもしれません(ぼーっとスマホを見続けていた時間など…痛いところですね)。もちろん息抜きも必要ですが、自分の時間の使い方の癖に気づくことで、「じゃあ将来はこういう時間の使い方をしたいな」という理想も見えてきます。

(2)次に、自分にとって何に時間を使うことを大切にしたいか、優先順位を考えてみることです。例えば「家族や友人との時間を大事にしたい」「趣味の時間を絶対に確保したい」「仕事で成長するために若いうちは多少長時間働いてもいい」など、人によって価値観は様々です。高校生の今、具体的な将来像が決まっていなくても、「〇〇の時間が自分の幸せにつながる気がする」という直感はあるかもしれません。その〇〇(家族との時間でも、自分磨きの時間でも、旅行でも何でも)が何かを意識しておくと、将来進路を選ぶときに役立ちます。たとえば「自分は家族との時間を大事にしたいタイプだから、残業が少なそうな仕事を選ぼう」とか「クリエイティブなことに時間を使いたいから、多少自由時間が減ってもその業界にチャレンジしよう」など、自分なりの軸ができるのです。

(3)そして、変化に柔軟に対応できる時間観を持ちましょう。これはどういうことかと言うと、「人生のある時期は猛勉強や仕事に集中するけど、別の時期には休む」とか「若いうちに集中的に色々経験して、中年期に一度学び直し、また新しい仕事を始める」といった、時間の使い方にバリエーションを持たせる考え方です。人生100年時代では、一つのパターンに縛られる必要はありません。むしろ環境の変化に合わせて時間配分を変えることが普通になるでしょう。高校生の皆さんも、「大学で専攻を決めたら一生その道で行かなきゃいけない」なんてことは全くありませんし、社会に出てからもやり直しは効きます。「遠回りしちゃいけないんじゃないか」「一度決めたら変更できないのでは」という完璧主義に陥る必要はありません。実際、10年前に比べて今の若者の不安は多様化し、「AI時代」「働き方の変化」「自分らしさ」といったキーワードが増えていると報告されています。これは言い換えれば、皆がそれぞれ違った時間の使い方・生き方を模索しているということでもあります。自分のペースで、自分流の時間の使い方を模索する柔軟さを持てば、時代の変化にも対応できるでしょう。

自分にとってのヒント

将来の時間の使い方や働き方に関するヒントも考えてみましょう。

・時間の「貯金」と「投資」を考える: お金に貯金や投資があるように、時間にも「貯める」「投じる」の考え方が応用できます。例えば、若いうちにスキルを身につけるために勉強や訓練に時間を投資すれば、将来の自分の自由時間や選択肢が増える「時間の利息」がついて返ってくるかもしれません。逆に、睡眠や休息といった自分の心身を癒す時間は「時間の貯金」です。しっかり休んで英気を養うことは、将来の活力を蓄えることになります。高校生活でも、「勉強時間」「部活や趣味の時間」「遊びや休憩の時間」をバランスよく配分する練習をしてみてください。それ自体が将来の時間管理の良いトレーニングになります。

・「効率的=良い」とは限らない: 現代は効率化が重視され、「いかに短時間で成果を出すか」が注目されがちです。もちろん仕事などでは効率は大事ですが、人生全体で見れば非効率な贅沢時間も大切です。例えば、あえて何もしないでのんびり過ごす時間や、遠回りの散歩をする時間、好きな音楽をぼーっと聴く時間など、一見生産性のない時間が心の豊かさにつながります。高校生の皆さんも、受験勉強や課題に追われて忙しいかもしれませんが、意識的に「何もしないリラックス時間」をとってみてください。時間に追われっぱなしだと心が擦り減ってしまいます。将来も、休む時はしっかり休む、仕事や家事を効率化して生み出した余暇は存分に楽しむ、といったメリハリが大切です。「時間=何かしなきゃいけない」ではなく、「時間=自分の人生を味わうためのもの」と捉えると、不安が和らぎます。

・他人と比較しすぎない: SNSで友達や有名人の24時間を見ることができる時代だからこそ、時間の使い方を他人と比べないことも重要です。「あの人は毎日趣味に打ち込んで充実しているのに、自分は…」とか「同級生はどんどん資格勉強しているのに自分は何もしていない」と焦ることがあるかもしれません。しかし、人それぞれ状況も違えばペースも違います。果物がそれぞれの季節に実るように、人にも「咲くタイミング」があります。10代で頑張る人もいれば、30代で花開く人もいるのです。他人の時間の使い方は参考程度に、「自分は自分」と割り切りましょう。特にSNSは成功している姿ばかり目につきますが、休んでいる瞬間や悩んでいる時間は写っていないだけです。誰だって24時間すべて有意義に過ごしているわけではありません。怠けてしまった日があっても大丈夫。「今日はサボっちゃったけどまあいいか。そのぶん明日ちょっと頑張ろう」くらいの気楽さで、長い目で見て充実していればOKなのです。

・「これから」の時間は未知数=希望でもある: 将来の時間配分がわからず不安になるのは、「未知数」だからです。でもそれを別の見方をすれば、「これからの人生には可能性がたくさんある」ということでもあります。例えば、「何歳で結婚して何歳で家を買って…」といった人生設計モデルが一義的でなくなったということは、自分で自由に設計できる余白が増えたとも言えます。海外に目を向ければ、30代で大学に入り直す人や、定年後に起業する人など様々です。日本でもこれからはそうした生き方が増えていくでしょう。時間に対して柔軟になれば、自分の可能性も広がるのです。不安な気持ちが出てきたら、「自分の未来の時間はまだ白紙だから、いくらでも好きな絵を描ける」と前向きに捉えてみましょう。白紙のキャンバスは怖い反面、自由でもあります。その自由を楽しむくらいの気持ちが持てれば、きっと不安より期待の方が大きくなっていくはずです。

第3章 お金:経済のしくみと暮らしの安心

なぜ大事か

3つ目のテーマは「お金」です。お金の問題は、多くの高校生が将来不安を感じる最大の要因でもあります。なぜお金がそんなに大事かと言えば、お金は生活の基盤であり、人生の選択肢を左右するものだからです。極端な話、お金が全くなければ食事も住む場所も得られず生きていけませんし、逆にお金に大きな余裕があれば留学や起業など様々な挑戦が可能になります。高校生の皆さんも、「将来ちゃんと働いて生活していけるかな」「親にこれ以上負担かけずにすむかな」と経済的な心配をすることがあるでしょう。実際、とある調査では高校生が将来不安に感じる社会問題のトップが「収入や物価などお金の問題」でした。お金の安心=人生の安心といっても過言ではないくらい、お金は私たちの生活に密接に関わっています。

また、「お金」は個人の生活だけでなく社会の経済構造とも深く関係しています。日本の経済はここ数十年、大きな成長がなく横ばいと言われています(いわゆる「失われた○○年」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんね)。一方で世界に目を向けると、新興国・途上国の中には急速に経済成長し、人々の収入が増えている国もあります。実際、過去20年間で新興国・途上国の実質賃金(物価の変動を除いた賃金水準)は約3倍にもなった一方で、先進国ではほとんど増えていないというデータもあります。このように、国や地域によって経済状況は大きく異なります。日本は豊かな先進国ではありますが、経済成長が鈍化している今、若い世代に「自分たちの親より豊かになれるのだろうか」という不安が生まれています。実際、先ほどの国際調査では「自分の国の子どもたちは親世代より良い暮らしができる」と答えた若者は、日本ではたった15%しかいませんでした (中国では85%なのと対照的です)。自分が大人になる頃、日本の経済や社会はどうなっているのだろう?そんな漠然とした不安が、高校生の皆さんにも広がっているのです。

では、お金について考える際には何を知っておくと良いでしょうか。基本となるのは「経済のしくみ」です。経済と言うと難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えばお金の流れや働き方の仕組みです。どんな仕事があって、どんなふうに給料が支払われ、物の値段(物価)がどう決まり、税金や社会保障で何がおこなわれているか、といったことです。こうしたしくみを知ることは、将来の人生設計に必ず役立ちます。お金の話は学校ではそれほど詳しく教えてくれないかもしれませんが、実は高校生の皆さんも強い関心を持っている分野です。先述の調査でも、「将来に向けて前向きになるためにこんな授業があれば」と高校生が望む科目の2位が「お金・暮らしについて学べる授業」でした。多くの高校生が、経済的な不安を少しでも解消したい、現実的なお金の知識を身につけたいと思っているのですね。

お金は大事、でもお金が全てではない。このバランス感覚も押さえておきましょう。確かにお金は生活の土台ですが、冒頭で触れたように高校生が理想とするのは「経済的・精神的に安定して自分らしく暮らせること」でした。お金はその安定のための手段です。お金自体をいくら貯めても、それを何に使うかが伴わなければ幸せには直結しません。ですから「なぜお金が欲しいのか」「お金でどんな安心が得られるのか」という目的意識も大事です。ただ漠然と「お金がないと不安だ」と思うより、「自分は〇〇をするためにこれくらいのお金が必要かな」と考える方が具体的で前向きでしょう。例えば「一人暮らししても困らないくらい稼ぎたい」「将来子どもができたら大学まで行かせてあげられる余裕が欲しい」などです。こうした目標が見えると、お金の問題は単なる不安から、クリアすべき課題に変わっていきます。

どう関係しているか

お金の問題が皆さんの将来不安にどう関係しているかは、ある意味分かりやすいでしょう。経済的に自立できるか、安定した暮らしを営めるかという不安そのものです。高校生の段階から「将来お金に困るかも…」と心配になるのは当然かもしれません。特に近年は物価が上がったり(例えば食品や日用品の値段が上がっているのを家庭で感じているかもしれません)、でもお給料はあまり増えていないというニュースを耳にします。そうすると、「自分が大人になったらもっと生活が苦しくなっているのでは?」と不安になりますよね。

また、日本独特の状況として少子高齢化に伴う経済不安も絡んできます。子どもが減り高齢者が増えると、先ほど述べたように働き手が不足し経済成長が鈍化する恐れがあります。実際、日本では毎年労働人口が数十万人規模で減っており、経済規模の維持が課題となっています。その結果、国の財政(家計で言えば収支)は厳しくなり、将来の年金制度や社会保障が心配…とニュースで聞くかもしれません。高校生にとって年金なんてピンと来ないかもしれませんが、「自分たちが年を取ったとき、本当に年金もらえるの?」という話題はよく大人の間で出ています。 第1章で見たような一人で一人を支える構図では、「年金制度は大丈夫か?」と悲観する声が出るのも無理はありません。このように社会全体のお金の仕組み(年金や医療保険など)が不安定になると、その世代を担う皆さんに将来的なツケが回るのでは…と不安になるのも無理はないでしょう。

さらに、就職やキャリアの不安もお金の問題と関係します。高校生が感じる不安の2位が「就職・仕事への不安」でした。これは「ちゃんと就職できるかな」「安定した仕事に就けるかな」という心配です。日本ではかつて「新卒一括採用」といって、新卒で入った会社にずっと勤めるモデルが一般的でしたが、今では転職も珍しくない時代になりました。企業も業績が悪化すればリストラ(人員削減)をすることもありますし、AIの進展で消える職業もあると言われます。そうなると、「将来どんな仕事なら安定して稼げるのだろう?」という疑問が出ますね。ITスキルが必要なのか、逆に人にしかできない介護や教育の仕事が安泰なのか…色々情報が飛び交うので混乱するかもしれません。職業選択の不安=収入の不安でもあります。好きなことを仕事にしたいけど収入が低かったらどうしよう、安定を取って興味ない仕事を選ぶべき?など葛藤もあるでしょう。このように、キャリアに関する悩みの根底にもお金の問題は横たわっています。

最後に、「先進国と発展途上国の違い」について触れてみます。これは直接的には皆さんの日常には関係ないように思えるかもしれませんが、世界の中で日本の若者が置かれた経済状況を知るヒントになります。例えば、新興国では経済が伸びているため「自分たちの暮らしは親世代より良くなる」と楽観視する若者が多いのに対し、先進国(特に日本や欧米)はあまり経済が成長していないため「自分たちの方が親より貧しくなるかも…」と悲観的な若者が多い傾向があります。日本財団の調査でも、日本の若者の「自国は良くなる」と考える割合は6カ国中で最も低くわずか15%でした。一方で中国やインドの若者は8割前後が自国の将来は良くなると答えています。この違いは、まさに先ほど述べた経済成長率の差(先進国は停滞、新興国は成長)を反映していると考えられます。つまり、日本の高校生が感じる経済的不安は、世界的に見ても先進国に共通する現象なのです。「日本だけが特別ダメなんだ」ではなく、ある意味構造的な問題として捉えることもできます。

どう考えればいいか

お金の不安に対処する考え方としては、(1)経済やお金の知識を身につけること、(2)自分なりの経済目標・戦略を持つこと、(3)お金と上手に付き合う心構えを持つことが挙げられます。

(1)まず、大前提としてお金に関する基礎知識を学びましょう。これは高校生の皆さんに是非強調したい点です。お金の話はタブー視されたり難しく思われたりしがちですが、知らないと余計不安になりますし、社会に出てから困ります。例えば、「税金ってどれくらい引かれるの?」「社会保険って何?」「家賃や食費ってどのくらいかかるもの?」など、基本的なお金の知識は生活の土台です。今はインターネットや書籍で高校生向けのやさしい解説もありますし、学校でも家庭科や公民で多少学ぶかもしれません。積極的に吸収してみてください。金融教育という言葉もありますが、将来のために貯金の仕方、借金の怖さ、利息や投資の基本なども知っておくと良いでしょう。知識があれば、不安の正体が具体的に見えるので対策も立てやすくなります。例えば「年金って将来減るかもと言われてるけど、じゃあ自分で老後資金を少し貯めておけばいいかな」とか、「物価が上がる時はこういう行動をすればいいんだな」といった風に、不安を現実的なプランに落とし込めるのです。

(2)次に、自分なりの経済目標や戦略を持つことです。「戦略」というと言い過ぎかもしれませんが、要はお金に関して長期的な見通しと計画を考えてみることです。高校生のうちから「人生の家計簿」をつける必要はありませんが、「将来こんな暮らしがしたいから、そのためにはこれくらい収入が欲しいな」とイメージすることはできますよね。例えば「車が欲しい」「留学したい」「子どもは2人は育てたい」など将来の希望があれば、大まかにどれくらいお金が必要か調べてみるのも面白いでしょう。そこから逆算して、「じゃあ月に○○万円くらい稼げる仕事がいいかな」「貯金はこれくらい必要かな」と考えてみるのです。もちろん、この通りにいくとは限りませんし、途中で変わっても構いません。でも目標があるとお金の不安は和らぎ、代わりにやる気が湧いてきます。例えば「海外旅行が趣味でも続けられるくらい稼ぎたい」という目標があれば、語学を勉強したり、その分野で給料の良い仕事を探すかもしれませんし、逆に「自分は質素でもいいからあまり働き詰めは嫌だ」という人ならワークライフバランスの良い職を目指すでしょう。戦略といっても難しく考えず、「自分のお金計画ノート」を作るような感覚でいてください。家計簿アプリで将来のシミュレーションができるものもありますし、一度遊び感覚でやってみるのも勉強になりますよ。

(3)最後に、お金と上手に付き合う心構えです。これは精神的な面になりますが、お金に対して健全な考え方を持つことはストレスの軽減につながります。どういうことかというと、「お金=怖いもの」「お金=汚いもの」と思わず、「お金は道具である」と捉えることです。先ほども触れましたが、お金自体が目的になると不幸になりがちです(いくらあっても満足できないとか、人を騙してでもお金が欲しいとなると本末転倒ですよね)。お金は自分の夢や安心のための道具くらいに考えておくと、適度な距離感を保てます。例えば収入が他人より少なくても、「自分はこの分、自分の時間という豊かさを持っている」とか、収入が多ければ「その分社会に還元しよう」といった風に、心のゆとりを忘れないことが大切です。また、お金のことで困ったら早めに誰かに相談するのも上手な付き合い方です。奨学金やローン、保険など難しい制度も多いので、一人で悩まず大人や専門家に聞けば解決策が見つかることもあります。お金はコントロールできるものであって、振り回されるものではないと理解しましょう。不安な気持ちが出てきたら、「自分はお金の主人公だ。ちゃんと勉強して計画すれば怖くない」と唱えてみてください。知らないものは不安ですが、知れば恐れず扱えるようになる、それがお金というものです。

自分にとってのヒント

お金に関するヒントも具体的に挙げてみます。

・身近なお金の管理から始めよう: 将来に備えて、まずは身近なお小遣いやアルバイト代の管理から練習してみましょう。毎月の収入(お小遣い等)と支出(使ったお金)をメモする習慣をつけると、金銭感覚が養われます。貯金も少しずつで良いのでやってみると、「お金を貯めるには時間がかかるんだな」「使いすぎると足りなくなるんだな」という実感が持てます。高校生のうちに赤字になって困ることは少ないでしょうが、もし「今月使いすぎてピンチ!」なんて経験があれば、それもまた社会に出る前の良い教訓です(もちろん無理のない範囲で…借金だけは絶対しないでくださいね)。小さなお金との付き合い方を身につけることは、大きなお金を扱う土台になります。

・「収入を増やす」と「支出を減らす」の両面作戦: 家計の基本はシンプルに言えば入ってくるお金と出て行くお金の差です。不安になると「もっと収入を増やさなきゃ!」と稼ぐことに目が行きがちですが、支出をコントロールすることも同じくらい重要です。将来、収入が思ったほど伸びなくても、支出を賢く抑えれば十分やっていける場合もあります。例えば物価高の時代には節約術が役立つでしょうし、趣味にお金がかかる人は他で節約する工夫をするなど。高校生の今なら、例えば欲しいものを買うとき「これは本当に必要かな?長く使えるかな?」と一呼吸おいて考えるクセをつけてみてください。それが将来、大きなお買い物(車や家、家電など)をするときに役立ちます。また「収入を増やす」発想としては、将来に向けて資格を取ったりスキルを磨いたりする自己投資も含まれます。高校生のうちに勉強を頑張るのも自己投資の一つです。お金に関して攻め(収入アップ)と守り(支出セーブ)の両面から考えるクセをつけると、不安を行動に変えやすくなります。

・社会のセーフティネットを知っておこう: 日本には生活に困ったときの公的な支援制度が色々あります。奨学金、生活保護、失業手当、住宅補助、医療費の公的負担、高校無償化なんて制度もそうですね。将来、本当に困ったときはそうしたセーフティネット(安全網)に頼ってもいいということを覚えておいてください。「自分は絶対人の世話にはならないぞ!」と意気込むのは立派ですが、あまり思いつめるとプレッシャーになります。国も税金で皆を支える仕組みを用意しているのですから、必要なときは堂々と利用すればいいのです。たとえばリーマンショックやコロナ禍では、多くの人が国の給付金や支援で救われました。また、どうしても日本で将来が見えなければ海外で働くという道もあります(今や若いうちに留学や海外就職を経験する人も珍しくありません)。要は、日本社会や世界全体で見れば助け船は意外とあるということです。「もしもの時は最悪こうすれば生きていける」と頭の片隅に選択肢を持っておくだけでも、心の余裕が違います。

・お金の先にある「人生の豊かさ」を考える: 最後に、大切な心構えです。お金のことを考えるとき、ぜひその先にある「じゃあお金は何のために使うの?」という問いを忘れないでください。高校生であれば、「将来〇〇したい」という夢や目標があるでしょう。その実現にお金は必要かもしれません。しかし、その夢自体があなたにとって大事なものですよね。お金はあくまでそれを叶えるための手段です。例えば「家族と幸せに暮らしたい」なら生活に必要なお金と少しの余裕があれば十分かもしれませんし、「世界一周旅行したい」ならその旅費が目標になるでしょう。お金の数字だけを見るのではなく、そのお金で得たい体験や安心を思い描くことで、不安は希望に変わります。貯金通帳の数字より、その貯金で行ける旅行先や買える大切なものを想像してみてください。きっとモチベーションが湧いてくるはずです。「人生の豊かさ」はお金では買えない部分も多いですが、お金があれば選択肢が広がるのも事実です。ですから、お金を上手に使って豊かな人生を送ろうという前向きな気持ちを持ちましょう。不安に押されて「お金がないとダメだ…」と縮こまるより、「こういう人生にするためにお金を賢く使おう!」と思えば、未来への見通しも少し明るくなるのではないでしょうか。

第4章 戦略的思考と行動:未来を切り拓くために

ここまで「子ども」「時間」「お金」という3つのテーマについて、それぞれ背景にある社会構造を説明しながら不安との向き合い方を考えてきました。では、これらを踏まえて具体的に将来へ備えるにはどんな戦略的思考や行動が必要でしょうか。この章では、前章までで得た知識を土台に、未来を主体的に切り拓くための考え方とアクションプランについて提案します。

なぜ大事か

「戦略的思考」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は将棋やチェスのように先を見通して考える力のことです。将来の不安に対して受け身で怯えるのではなく、「自分はこう動こう」「次にこう備えよう」と能動的に考えることが大切だという意味で、ここではあえて「戦略的」という言葉を使っています。皆さんは今までの章を読んで、日本や世界の動きが自分の未来に関係していることを知りました。知ったからには、今度はそれらを踏まえて自分ならどう生きるかプランを練る番です。

戦略が大事な理由は、不確実な未来に向けて羅針盤を持つようなものだからです。未来は誰にも正確には予測できませんが、何も考えず流されるより、自分なりの指針を持っていた方がいざというとき慌てずに済みます。高校生の皆さんにとって戦略的に考えるメリットは、進路選択やキャリア形成で大きく現れるでしょう。例えば、「少子高齢化が進むなら医療や介護の仕事は需要が高そうだ」「ITが重要になるならプログラミングを勉強しておこう」といった風に、社会の方向性を読み取って自分の進む道を準備できます。また、「自分は時間を大切にしたいタイプだから在宅でもできる仕事スキルを身につけよう」「お金に不安があるから資格を取って手に職をつけよう」といった個人の戦略も立てられます。こうした先手を打つ考え方ができれば、不安はだいぶ和らぐはずです。「自分はちゃんと準備している」という自信が、将来の漠然とした恐れを小さくしてくれるのです。

さらに、戦略的思考にはリスクヘッジ(危険分散)の発想も含まれます。これは一つのことに全てを賭けず、複数の選択肢を持っておく考え方です。例えば収入源を一つに絞らず副業する、国内だけでなく海外も視野に入れる、技術職だけでなく人間関係力も磨いておく、などです。人生のポートフォリオを作るようなイメージですね。高校生の今だと、文理選択や受験科目選びなどで「将来のために理系にしておこうかな、でも興味は文系もあるし…」と迷うかもしれません。戦略的には「本命は理系だけど文系の勉強も続けておこう」とか「どちらにも転べる学部を選ぼう」といった判断になるでしょう。それは決して逃げではなく、柔軟性という強みになります。予測不能な時代だからこそ、一本の柱といくつかのサブプランを持っておくことが、自分の未来を守ることにつながるのです。

どう関係しているか

戦略的思考や行動は、これまで述べてきた「子ども・時間・お金」の不安すべてに関係しています。それぞれのテーマで挙げたヒントを思い出してみてください。例えば子どもの章では「自分なりの幸せの形を考える」「社会の動きを知る」などを挙げました。時間の章では「優先順位をつける」「柔軟な時間観を持つ」、お金の章では「経済知識を学ぶ」「計画を立てる」などがありました。実はこれらはすべて戦略的思考・行動の一部なのです。

高校生の皆さんは、普段の勉強や部活でも戦略的に考える場面があるでしょう。テスト勉強の計画を立てたり、試合で相手チームの弱点を攻略したりするのも一種の戦略です。将来についても同じように、目標を設定し(Goal)、現状を分析し(Reality)、選択肢を考え(Options)、具体的な行動を決める(Will)という手順で考えてみると良いでしょう。これは「GROWモデル」と呼ばれるコーチングのフレームワークですが、簡単に言えば「何をしたい?今どんな状況?どういう手がある?じゃあ何をやろうか?」という問いかけです。例えば、「自分は将来〇〇になりたい(Goal)。今の自分は△△が足りない(Reality)。手段としては大学で勉強するか専門学校に行くか独学するかがある(Options)。よし、まず大学進学を目指して勉強しよう(Will)。」といった具合です。こうやって整理すると、不安だった将来像が具体的なロードマップに変わっていきます。

また、戦略的に考えることで不安の原因を自分でコントロールできる部分とできない部分に分けることができます。例えば「少子高齢化で日本の経済が心配」というのは自分では直接コントロールできない大きな話です。でも「だからこそ英語とプログラミングを学んで海外でも働けるようにしよう」とか「公務員になって安定を図ろう」といった自分で決められる行動に落とし込めます。コントロール不能なことにくよくよするより、自分の行動で変えられることにフォーカスするのが戦略的姿勢です。こうすることで、不安の渦に飲み込まれず一歩引いて状況を見ることができます。「世の中がどうなろうと、自分はこう備えておくから大丈夫」と思えれば心強いですよね。

さらに、行動まで起こすことが大事です。戦略を立てるだけで終わらず、小さなことでも実践することで自信がつき、不安が減っていきます。例えば、お金の不安に対して節約や貯金を始めてみる、時間の不安に対して早起きして勉強や運動する習慣をつけてみる、子どもの将来像に不安なら実際に保育園でボランティアして子どもと触れ合ってみる、など行動はいくらでもあります。行動すれば結果がフィードバックされ、戦略をまた調整できます。このPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)を回すこと自体が、将来に対する耐性を高めてくれます。「不安だ不安だ」と立ちすくむのではなく、走りながらハンドルを切っていくイメージです。こうして自分で未来へのアクションを積み重ねれば、「きっとなんとかなる」「ダメでもまた次を考えればいい」と前向きに構えられるようになるでしょう。

どう考えればいいか

戦略的思考と行動について考える際に、意識してほしいポイントを挙げます。(1)長期的視野と短期的視野を持つ、(2)失敗から学ぶ姿勢、(3)協力とネットワークの活用です。

(1)長期的視野と短期的視野の両方を持つ。 将来の計画を立てるとき、遠い未来ばかり見ていると「果てしないな…」と感じるかもしれません。逆に目先のことだけ考えていると大局を見失います。おすすめは、「10年後・5年後・1年後・今週」のように時間軸の異なる目標をセットで考えることです。例えば10年後になりたい姿を描き、5年後にその途中で何をしているか、1年後には何を達成していたいか、では今週何をする?とブレイクダウンします。10年後なんて想像つかない!という人は、逆に「来週までに○○をやってみよう」と短期目標から積み上げていってもOKです。「大学1年の自分」「社会人1年目の自分」など区切りの未来を具体的にイメージするのも効果的です。大事なのは、遠くの山と足元のステップを両方見ること。遠くの山(長期目標)が見えていれば方向を誤りませんし、足元のステップ(短期行動)が見えていれば確実に前進できます。将来への不安が大きいと感じるときほど、この両方の視点を意識してみてください。きっと心が整理され、「今自分にできること」に集中できるはずです。

(2)失敗から学ぶ姿勢を持つ。 戦略的に動いても、物事がうまくいかないことはあります。むしろ計画通りに行かないことの方が多いでしょう。そのときに、「やっぱりダメだ」と落ち込んでしまうのではなく、「この失敗から何を学べるかな?」と考える習慣をつけましょう。現代の高校生は完璧主義の傾向が強く、失敗を極度に恐れる人もいると指摘されています。しかし、失敗は貴重なデータです。何もしないで悩んでいるだけでは失敗もできませんし、成長もありません。挑戦して失敗したということは、少なくともその時点での自分の課題点が見えたということです。それを次に活かせば、戦略はアップデートされます。企業の経営戦略でも、新商品を出して失敗しながら改良していくのは普通のことです。皆さんの人生戦略も同じです。一度の受験や就職がうまくいかなくても、そこから学んで次に繋げればいいのです。大事なのは失敗から素早く立ち直り、知恵に変えること。そのために、「うまくいかなかった原因は何だったか」「次はどう工夫できるか」を自分なりに分析してみましょう。分析というと大げさですが、要するに振り返りです。例えば模試の結果が悪かったら「勉強法を変えてみよう」、面接で落ちたら「受け答えを改善しよう」など、次の一手を考えることが戦略思考です。一度や二度の失敗で人生は終わりません。むしろ失敗を重ねた人ほど強く賢くなっていきます。「失敗は成功のもと」という古い格言は今なお真理です。不安を感じたら、「失敗してもそこから学べばいいや」と気楽に構えてみてください。

(3)協力とネットワークを活用する。 戦略というと一人で練るイメージがあるかもしれませんが、人生の戦略は周囲の人との協力や支え合いによって格段に実行しやすくなります。例えば、友人と勉強や情報収集で協力したり、先輩や先生にアドバイスをもらったり、将来は職場の同僚やパートナーと役割分担して家庭を築いたりと、ネットワークを活かす場面がたくさんあります。自分一人ですべての不安に立ち向かう必要はありません。頼れるものは頼り、チーム戦で未来を切り拓くくらいの気持ちでいましょう。実際、日本の若者は自己肯定感や自己効力感(自分に価値がある、物事を変えられるという感覚)が他国と比べて低いという調査結果もあります。自分一人ではどうにもならない…と感じがちなら、なおさら周囲と連携することが大切です。「みんなでやれば怖くない」というのは半分本当で、社会の課題も一人では解決できなくても仲間となら乗り越えられることが多いのです。高校生活でも、学園祭や部活動など仲間と一緒に一つの目標に向かった経験があるでしょう。そのとき一人では達成できなかったことが、チームだとできたはずです。将来の大きな目標も同じです。「周りに助けてもらい、自分も周りを助ける」という姿勢でネットワークを築いておけば、不安なとき必ず力になってくれる人がいます。戦略的思考の中にぜひ「誰と一緒にやるか」という視点も加えてみてください。人生というプロジェクトのチームメイトを増やすイメージです。これは就職活動で言えば「人脈づくり」に通じますし、プライベートでは「良い友人関係・パートナーシップ」を築くことにもつながります。協力し合える関係があれば、不安は半分に、喜びは二倍になりますよ。

自分にとってのヒント

戦略的に未来に向き合うためのヒントをいくつか提案します。

・自分の「強み」と「好きなこと」の交差点を探す: 将来の戦略を立てる上で、自分の得意なこと(強み)と情熱を持てること(好きなこと)を知るのは重要です。それが見つかれば、戦略の軸になります。高校生が将来に前向きになれる瞬間として、「得意なことや好きなことが見つかったとき」が最多だという調査もあります。まずはいろいろ経験して、「これ面白いな」「これなら頑張れるかも」というものを探してみてください。部活でも趣味でも勉強でも何でも構いません。その交差点に将来のヒントが眠っています。例えばパソコンが得意でゲームが好きならゲームプログラマーを目指す戦略もあるでしょうし、人と話すのが好きで世話好きなら看護師や教師などが向いているかもしれません。強み×好きは最強のモチベーションを生む組み合わせです。戦略とは目標達成のシナリオですが、自分が燃えられるテーマでなければ続きません。逆に言えば、強みや好きなことが見つかれば、不安より「早くそれをやってみたい!」というワクワクが勝るようになります。

・定期的に「未来会議」を開催する: 自分自身と向き合って戦略を練る時間を定期的に作りましょう。名付けて「○○(自分の名前)の未来会議」です。例えば半年に一度でも一年に一度でも、静かな環境でじっくり「最近の自分の状況とこれからの目標」を書き出してみます。これを習慣にすると、ブレずに歩んでいけます。企業が定期的に経営計画を見直すのと同じです。高校生のうちは進級や受験のタイミングで自然と将来を考えるかもしれませんが、社会人になってもこの癖を続けると良いでしょう。その際、家族や恩師など信頼できる人に相談するのも有効です。自分では気づかない視点をもらえるかもしれません。大事なのは、忙しさに流されず立ち止まって考える時間を確保することです。不安は何も考えない時に膨らみますが、紙に書き出して整理すれば小さくなります。未来会議では不安リストと対策も書いてみましょう。「○○が不安→△△すれば解決できるかも」と書くだけで、「よし、やれることはあるな」と安心できます。自分ひとりの頭の中で悶々とせず、「見える化」して戦略を練る習慣は、きっと将来の大きな助けになります。

・「常識」を疑ってみる: 戦略を考える上で、世の中の常識や既成概念にとらわれすぎないことも重要です。もちろん社会のルールや先人の知恵は尊重すべきですが、時代の変化とともに常識は変わります。むしろ大きな変化の時代には「前はこうだったけど、これからは違うやり方があるかも」と柔軟に発想する人が成功します。高校生の皆さんにも、「本当はこうしなきゃダメってことないんじゃないか?」と思うことがあるでしょう。例えば「大学に行くのが当たり前だけど、行かない道もあるのでは?」とか「正社員で働く以外にフリーランスという手もあるよね?」などです。そうした視点を持つことは、自分なりのユニークな戦略につながります。ただ漠然と不安がるより、「もしかして新しい道があるのでは?」と発想することで未来の選択肢が増えるのです。実際、今の10代20代の中には起業家やYouTuber、フリーランスエンジニアなど従来とは違うキャリアを切り拓く人も出てきています。皆さんも「常識にとらわれない戦略眼」を養えば、自分だけの未来デザインが可能になります。不安に思うことがあったら、「そもそもそれって絶対そうしなきゃいけないんだっけ?」と自問してみてください。意外な答えが見つかるかもしれません。

・小さな成功体験を積む: 戦略的行動の効果を実感するには、小さなことでも成功体験を積むのが一番です。例えば、「この勉強法に変えたら成績が上がった」「アルバイトで接客スキルを磨いたらお客さんに褒められた」など、なんでも構いません。そういう経験があると、「自分は工夫次第でちゃんと良くできる」という自己効力感が育ちます。これは不安に打ち勝つ大きな武器です。ですから、ぜひ身近な目標を立てて達成する喜びを味わってください。それが戦略実行の訓練にもなります。ゲームで言えばクエストを一つずつクリアしてレベルアップしていくイメージですね。進路や就職といった大きな目標は時間がかかりますが、その途中途中で「~ができるようになる」「~に挑戦する」というミニ目標を設定し、クリアしていきましょう。そうすれば遠いゴールもいつの間にか近づいてきます。小さな成功体験の積み重ねが、「次もきっとできる」という自信に繋がり、未来への不安を軽減してくれます。

第5章 自分の未来をどう描けばいいか

いよいよ最終章です。この章では、これまでの内容を踏まえて「自分の未来の描き方」についてまとめたいと思います。高校生の皆さんにとって、自分の未来を描くことは時に不安で、時に楽しみでもあるでしょう。ここではその未来図を描くための指針をお届けします。最後にもう一度、肩の力を抜いて私の話を聞いてくださいね。

なぜ大事か

自分の未来を自分で描くことは、人生という長い旅の地図を自ら作るようなものです。地図が全て正確である必要はありませんが、自分なりの方向性や理想像を持っていることは、日々の迷いや不安に対する大きな支えになります。逆に、未来のビジョンが全く見えないとき、人は不安に飲み込まれやすくなります。高校生活でも、「将来やりたいことが特にない」という状態だと勉強に身が入らなかったり、なんとなくモヤモヤしたりすることがあるでしょう。それはコンパスがない船のようなものです。多少ぼんやりしていても構わないので、自分なりの未来像を心に持つことは大切なのです。

また、未来を描くことは不安を和らげるだけでなく、今の行動に意味を与える効果もあります。例えば、「将来医者になりたい」という夢があれば、つらい受験勉強にも耐えられるでしょうし、「将来は好きなことで生きたい」という願いがあれば、今の努力がその一部だと思えて頑張れます。人間は目的を感じられると強いものです。逆に目的が見えないと、小さな困難でも「何のためにこんなことを…」と挫けてしまいがちです。ですから、自分なりの未来図=人生の目的地を持つことは、日々のモチベーションにも繋がるのです。

未来を描く上で重要なのは、それが自分自身のものであることです。他人や世間の描いた未来図ではなく、自分の心が「これがいい」と思える未来でなければなりません。親や周囲から「あれがいい、これが安定だ」と言われることもあるでしょう。参考にするのは良いですが、最後に決めるのは自分です。なぜなら自分の人生を実際に生きるのは自分だけだからです。極端な話、たとえ誰かに決められたレールに乗って成功しても、自分がそれを望んでいなければ幸せとは言えないでしょう。高校生の皆さんにはまだわからない部分も多いかもしれませんが、これからいろいろ経験し、悩み、喜ぶ中で「自分はこれを大事にしたい」という価値観が芽生えてきます。その軸に沿って未来を描けば、おのずと自分らしい人生の輪郭が見えてくるはずです。

どう関係しているか

これまで見てきた「子ども」「時間」「お金」の話も、最終的には皆さん自身がどんな未来を描くかに関わってきます。例えば、子どもの章では「自分なりの幸せの形」を問いかけました。それこそが未来の自分の姿を描く作業でした。時間の章では「人生の時間をどう配分するか」を考え、これも言い換えれば未来図の設計です。お金の章では「お金を使ってどんな人生にしたいか」を考えました。それも未来を描く一部ですね。つまり、これまでの内容は皆さんが未来を描くための情報とヒントを提供してきたとも言えます。

ここで改めて強調したいのは、未来の絵は一つではないということです。人生はマルチエンディングのゲームのようなものかもしれません。複数の可能性があり、選択や運命によって変わり得ます。高校生の段階で「これが自分の最終的な未来図だ!」と決める必要は全くありません。むしろ、いくつかシナリオを持っていて良いのです。「第一志望はこんな未来、でも第ニ志望はこっちの未来もいいな」くらいに、未来の選択肢を複数ストックしておくと心強いです。不安が大きいときは「もしダメでもこの道がある」と逃げ道が見えているだけで安心できます。たとえば「第一志望の大学に行けなくても、違う道からやりたいことにアプローチしよう」とか「企業に就職しなくてもフリーでやっていく手もある」とか。未来の描き方にバリエーションを持たせることは、不安に対する保険にもなるのです。

また、未来を描くことは今を生きることとも関係しています。未来ばかりに囚われると、今この瞬間の楽しさを見失ってしまうかもしれません。それでは本末転倒です。描いた未来は大事にしつつ、「今」を充実させることも忘れないでください。未来とは、結局のところ「たくさんの今の積み重ね」でできています。今日という日を大切にできる人は、きっと素敵な未来も作り上げられるでしょう。逆に、未来の不安にとらわれすぎて今を楽しめないとしたら、それはもったいないです。高校生活は一度きりですし、若い時間は戻りません。未来を思い描きつつ、今しかできないこと、今感じられる幸せにも目を向けてください。それがポジティブなエネルギーとなって未来にも繋がります。

どう考えればいいか

最後に、自分の未来を描くときに心に留めておいてほしい考え方をお話しします。(1)自分の心の声を大切にする、(2)変化を恐れない、(3)希望を持つです。

(1)自分の心の声を大切にする。 将来を考えるとき、情報や他人の意見が溢れていて惑うことも多いでしょう。しかし最終的には、自分の内なる声(本音)に耳を傾けてください。どんなに世間的に良いと言われる道でも、自分の心がNOと言っていれば慎重になった方がいいです。逆に、人から何と言われようと心がYESと叫ぶ道があるなら、挑戦する価値があるでしょう。自分の人生は自分のものですから、自分がワクワクする未来図を描くことが大切です。たとえそれが人から理解されなくても、自分が納得していれば幸せになれます。もちろん、生きていく上で妥協や現実との折り合いも必要ですが、大枠では自分の心が望む方向に進んでください。心の声を聞くには、一人の時間や静かな環境でリラックスして考えると良いです。スマホやPCから離れて、散歩しながらとかノートに思いつきを書き殴りながらでもいいでしょう。そうすると本当は自分は何を望んでいるのか、ふっと見えてくる瞬間があります。その声を大事にしましょう。それがあなたの人生の羅針盤になります。

(2)変化を恐れない。 未来を描いたとしても、人生は計画通りにいかないことも多いです。環境が変わったり、自分の感じ方が変わったり、予期せぬ出来事も起こります。でも、それは悪いことではありません。むしろ人生の醍醐味は予想外の展開にあるとも言えます。当初描いていた未来図から軌道修正することになっても、自分を責めたり落胆しすぎないでください。人は成長するにつれて価値観も変わりますし、新しい夢が生まれることもあります。昔の夢にこだわりすぎて苦しくなるより、状況に合わせて未来図を描き直す柔軟さを持ってください。変化に対応する力こそ、これからの時代には必要です。例えば大学で新しい分野に出会って進路を変える人もいますし、仕事をしながら天職を見つける人もいます。未来の絵は何度描き直してもいいのです。大事なのは、その時々で「今の自分はこれがしたい」という気持ちに素直でいることです。ですから、将来設計は固く石に刻むのではなく、鉛筆で描くイメージでいてください。必要に応じて消しゴムで消し、新たに描き足せばいいのです。変化を恐れず、むしろ楽しむくらいの余裕が持てれば、不安はきっとチャレンジ精神に変わります。

(3)希望を持つ。 最後になりますが、やはりこれが一番伝えたいことです。どんなに時代が不透明でも、どんなに不安があっても、希望だけは捨てないでください。 希望とは根拠のない楽観ではなく、「自分ならきっと乗り越えられる」「世の中も捨てたもんじゃない」という前向きな信念です。日本の若者は悲観的と言われがちですが、これから社会を作っていくのは皆さんです。皆さんが希望を持てる社会にしていく使命があるとも言えます。世界を見れば、困難な状況でも明るい未来を信じて行動している若者がたくさんいます。日本でも、少子高齢化や経済停滞に立ち向かって新しいサービスやコミュニティを生み出している人たちがいます。そうした事例に触れると、「自分も何かできるかも」と元気が出るでしょう。希望は伝染します。周りに希望を語る人がいなければ、皆さんがその第一人者になってください。「自分はこんな未来を描いているんだ」と友達や家族に話してみましょう。最初は照れくさいかもしれませんが、口に出すことでリアリティが増し、応援してくれる人も現れます。明るい未来像を語ること自体が、世の中を良い方向に動かすエネルギーになります。

では、どうやって希望を持てばいいのでしょうか。それはもうシンプルに、「信じる」ことです。自分を信じ、仲間を信じ、未来を信じる。辛いニュースが多い時代ですが、その陰で誰かが努力し問題解決に動いていることも忘れないでください。先進国が停滞と言われる一方で、新しいテクノロジーや価値観で社会を良くしようとする動きも満ちています。皆さん自身も、未来への希望になり得る存在です。自分自身が未来の希望であると考えてみてください。少子化で若者が減る中、あなたが存在してくれるだけで日本にとっては宝物です。あなたの持つアイデアや情熱が、これからの社会をきっと彩ってくれます。だからこそ、自分の未来を諦めずに描き続けてほしいのです。希望の筆を持って、自由にキャンバスに夢を描いてください。

自分にとっての指針

最後に、未来を描く上での具体的な指針を箇条書きでまとめます。

  • 自分の価値観を知ろう: あなたにとって譲れないもの、大切なものは何ですか?家族、友情、挑戦、安定、創造性…自分のコアとなる価値観を言葉にしてみてください。それが未来を描くときの基本カラーになります。
  • 人生の優先順位を考えよう: 仕事、家庭、趣味、健康、お金、名誉など、人生には様々な要素があります。自分は何を一番優先したいか、二番目は何か、ざっくり順番を考えてみましょう。全てを完璧に手に入れるのは難しいので、自分の中で何を重視するか決めておくと迷いが減ります。
  • ロールモデルを探そう: この人みたいに生きたい!と思える先輩や大人を見つけてみてください。本やネットでも構いません。ロールモデルは一人でなくていいです。Aさんのようなキャリア、Bさんのような家庭、Cさんのような人格…と良いとこ取りして、自分なりの将来像を描くヒントにしましょう。
  • 5年後の自分へ手紙を書く: ちょっとユニークな方法ですが、今の自分が5年後の自分に宛てて手紙を書いてみましょう。「元気にしていますか?あなたは今〇〇していますか?」という感じで、自分の希望や質問を書きます。タイムカプセルのように保管し、5年後に読み返すと驚きと発見があります。未来への約束として書いてもいいですね。
  • 「まあ何とかなるさ」の精神: 指針とは少し矛盾するかもしれませんが、最後にこれを。未来を真剣に考えるあまり、がんじがらめになっては元も子もありません。心のどこかで「きっと何とかなるよ」と楽天的に構えておくことも大事です。日本には「七転び八起き」「案ずるより産むが易し」という言葉もあります。悲観しすぎず、楽観しすぎず、でも心は太陽に向けて。 それくらいのバランスがちょうど良いのです。

おわりに

長いお話に最後までお付き合いいただきありがとうございます。ここまで、「子ども」「時間」「お金」の3つの切り口から将来への不安を解きほぐし、戦略的思考や未来の描き方について考えてきました。内容を振り返ると、決して簡単な問題ではないかもしれません。日本社会は少子高齢化や経済の停滞など課題を抱え、皆さん世代はその真っ只中で未来を見据えなければなりません。しかし、同時に皆さんは無限の可能性を持っています。社会の課題を解決する新しいアイデアを生み出すのも、より良い働き方や生き方を実現するのも、今の若い世代の力にかかっています。悲観的なデータも色々と示しましたが、それは決して「絶望」を意味しません。むしろ、「伸びしろ」がたくさんあるということです。課題が大きいということは、そこに挑戦するチャンスも大きいということです。

どうか覚えておいてください。未来は決して真っ暗なんかじゃないということを。高校生の皆さんがこれから紡いでいく未来は、きっと今よりも良い社会にしていけると信じています。もちろん、その途中で悩んだり遠回りしたりすることもあるでしょう。そのときは、ぜひこのレポートでお伝えしたことのどれか一つでも思い出してもらえたら嬉しいです。何よりも、自分自身を信じ、周りと支え合い、前を向くこと。それさえ忘れなければ、どんな困難も乗り越えていけるでしょう。

最後に、皆さんの未来が「自分らしく、安心して暮らせる日常」で満たされることを心から願っています。そしてその日常が、かつて漠然と不安に思っていた将来が、実は自分の努力と工夫でちゃんと描き出せたものだと誇らしく振り返られる日が来ることを信じています。あなたの未来の主人公は、他でもないあなた自身です。 どうか恐れずに、希望というペンキで思い思いの未来を描いてください。その絵はきっと、これからの日本社会にとってもかけがえのない一枚になるでしょう。

皆さんの輝かしい未来にエールを送ります。がんばってくださいね。きっと大丈夫。

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